地唄・歌詞

 
     
 

≪寿≫

 
 

明け渡る 空の景色もうららかに 遊ぶ糸遊 名残の雪と謎を霞にこめてや春の 風になびける
青柳姿 緑の眉か 朝寝の髪か 好いた枝ぶり慕いて香る 好かいでこれが梅の花 宿る鶯
気の合うた同志 変わらでともに 祝う寿

 
     
 

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浮草は 思案の外の誘う水 恋が浮世か浮世が恋か ちょっと聞きたい松の風 問えども答えも山時鳥 月やは物の やるせなき 癪にうれしき男の力 じっと手に手を 何にも言わず 二人して釣る蚊帳の紐

解説:癪が媒介で結ばれた恋を叙べ、女の艶やかさが表現された艶もの。

 
     
 

(さと)景色

 
 

更けて廓の装い見れば 宵の灯火うち背き寝の 夢の花さえ散らす嵐の誘い来て 閨を呼び出す連人達よそのさらばも なおあわれにて 埒も中戸を明くる東雲 送る姿の一重帯 解けてほどけて寝乱れ髪の 黄楊の小櫛もさすが 涙やはらはらに袖に こぼれて袖に 露のよすがの憂き勤め こぼれて袖に つらきよすがの憂き勤め

解説:深更の夜の情景、遊女の身のはかなさに涙をこぼすというもの

 
     
 

≪袖香炉≫

 
 

春の夜の 闇はあやなしそれとかよ かやは隠るる梅の花 散れど薫りはなお残る 袂に伽羅の煙り草きつく惜しめどその甲斐も 亡き魂衣ほんにまあ 柳は緑紅の 花を見捨てて帰る雁

解説:追善曲として作られ、故人の名(それとかよ)を詠み込み、魂衣とは故人の着物のことを言う。

 
     
 

≪袖の露≫

 
 

白糸の絶えし契りを人問わん つらさに秋の夜ぞな長き あだに問い来る 月は恨めし 月は恨めし明け方の枕に誘う松虫の 音お絶え絶えにいとどなお 萩吹く風の音信も 聞くやと待ちて侘しさの涙の露の憂き思い 臥してまろ寝の 袖にかわかん

解説:袖の露は、悲しみの涙で袖が濡れることの意味で、別れた後の恋の切なさを叙している、艶っぽいながらも和歌の手法を取り込み上品な内容。